奥山 イタリアというとパスタですね。麺文化という点では大先輩です。600種類くらいあるそうで、それだけバラエテイーに富んでいる上、食の周辺がにぎやかです。マンジャーレ(食べる)・カンターレ(歌う)・アモーレ(恋する)が分かちがたく結びついていると聞きます。
樺島 バッラーレ(踊る)もあります。食事が終わると、ギターを弾きながら、歌って、踊って、笑って。
イタリア人が毎日食べているパスタは、強力粉の最高の文化で、うどんは中力粉の最高の文化だと思ってます。小麦粉の種類が違います。強力粉と中力粉とではデンプンの量が違うんです。今後の夢は、中力粉のうどんの美味しさを、ヨーロッパの人たちに食べてもらおうと、僕は考えています。カルボナーラとさぬきうどんを対決させてみたい。
たしかに素うどんを出してむこうの人が受け入れてくれるとは思っていません。ただ、このコシの強さとねばりが受けないハズはないと、大きな自信を持っています。台湾で挑戦できる自信をもてたのは、さぬきうどんの麺の美味しさに感動していただけるとの強い確信があったからです。それ以外はありません。
ただ、特にイタリア人は食に保守的で、あまり外国の料理は食べないんですけど、だからこそ自分が近い将来挑戦してみたい。情熱があればできると思います。簡単に達成できることはやりたくない。
奥山 「対決」といっても、別に商売の帰趨を決するワケではないんでしょう?
樺島 地域の人に受け入れられて、愛されて、根付いていけばいい。
奥山 さきほど「さぬきうどんのコシにひかれて」と言われましたけど・・・。
樺島 食感ですね。表面は軟らかいんですけど、噛んでみたら弾力性がある。そういう微妙な食感はそれまで出会ったことがなかったんです。いろいろな先生にお聞きしますと、「コシは固いのではない、表面は軟らかくても噛み応えがあって、シンがある、それがコシだ」と言われました。それをいつも目指しています。
奥山 アルデンテとはどう違いますか?
樺島 理屈はいっしょだと思います。麺の表面から中心に向って徐々にお湯が浸透し、茹であがる。最後のシンが残っているのがアルデンテですので、けっきょくコシとはパスタのアルデンテのことだと思います。
奥山 麺は、うどんのほか素麺やラーメンがあります。小麦粉食品と解すれば、餃子があります。イタリアで言うとトルテッリーニですね。うどんはちょっと横に置いておいて、ラーメンについてどう思われますか。
樺島 僕は出身が九州ですから、もの心ついたころからラーメン・餃子・ごはんのセットが最高のご馳走でした。中学・高校のころはラーメンばかり。お金があるときはチャーシュー付き。ラーメンといえばこってり味のトンコツしかありません。ただ35歳になりますと以前ほどラーメンは食べなくなりました。あっさりした消化の早いうどんを食べたくなりますね。10代20代はラーメン好み、うどんは女性もしくは年配の方に受けるという感覚です。うどんは一生連れ添う妻、ラーメンは若い時分の恋愛対象、ですかね。(笑い)
世界食への課題
樺島 世界の市場規模としては、ラーメンのほうがうどんよりずっと大きいんじゃないかと思います。
奥山 日本発の麺として先頭きって走っているのはラーメンです。最近ヨーロッパをまわって来られたそうですが、ラーメン事情はどうでしたか?
樺島 先月パリと香港を視察してきましたが、パリにはもうコテコテの札幌ラーメンとかが流行ってました。外観はきれいに見えるんですけど、店内は本当に日本のどこの地方にでもあるようなテーブルがちょっと油っぽいラーメン店で、客はほとんどがフランス人。驚いたのは、8割くらいの人が箸を使って食べているんです。
奥山 二十数年前、オペラ座前の裏通りの日本料理店でラーメンを食べたことがあります。韓国人が経営していましたけど。
樺島 日本人の他に、韓国人や中国人がオープンしている日本食レストランが増えていると聞きました。日本料理はヘルシー感があり、しかも客単価が高くとれるというので転向するところがかなり増えたそうです。日本人経営のお店はオペラ座とルーブル美術館の中間辺りに集中していて、かなり本格的にやっていますね。ラーメンやうどん1杯が日本円で1200〜2000円くらいです。それが飛ぶように売れていて、ピーク時は20〜30人の行列ができているところもあります。味噌ラーメン、塩ラーメンがよく売れているようでした。それと丼物も人気。パリジェンヌがシャケ丼をバクバク。ニューヨークで先に日本食ブームになって、そのあとパリに伝わったかもしれません。それにしても、なぜここ2〜3年でパリでこんなに日本食がブームで行列ができるようになったかは、現地の人たちもよくわからないと言われました。
奥山 シャケ丼はラーメンと一緒に出されているんですか? それとも別々に?
樺島 どちらもありますが、定食が人気のようです。台湾もそうですが、海外で単品勝負というのは難しいと感じています。
奥山 そういうことも含めて、日本食は世界食になる潜在力はあるわけですね。
樺島 日本食はすごくオリジナリテイーがある。実演があるのも興味を引ける。オリジナリテイーがあって質が高いものは、世界が受け入れてくれる。だから、文化大国であるヨーロッパで、日本の本物の文化を紹介してみる価値があると思います。
奥山 パリの味付けは日本のものそのままでしたか?それとも現地の好みに妥協して変えていませんでしたか?
樺島 まったく同じでした。塩ラーメンなどは、日本より塩っぱいぐらいでした。
フランス人が、焼きそば、ラーメン、カレーライスなどを、本当に普通に食べあっている光景は、びっくりでした。これからもっと定着していくんじゃないでしょうか。
奥山 すごいですね。
さきほど強力粉と中力粉を分けて美味しさを評価されましたが、感覚的にはどう違いますか?
樺島 「ねばり」という意味では完全に違います。強力粉は、あのパスタの細さや厚みでないと美味しくありませんし、中力粉では、うどんの太さでないと美味しくない。太さもうどんの一つの魅力になっていると思います。いつもパスタを意識している私としては、いつかヨーロッパでイベントを行う際にあの「ねばり」を対比させてみたいと思っています。
奥山 日本人はシンプルな食べ方をしますよね。その場合、小麦粉の美味しさとスープでしょう?
樺島 はい、たぶん。しかし、恐らくうどんの麺の味をとことん追求するのは香川県の人だけだと思います。僕は子どものときうどんは確かに食べていましたけど、かけうどんを食べた記憶はありません。天ぷらうどんとか、肉うどんとか、必ず何か具が載ってないと物足りなくて食べた気がしない。麺よりも具が大事でしたから。だから、何も載ってないのは美味しくないと感じる外国人の感覚と同じだと思います。
奥山 ただ、一方においてこのシンプルな食べ方は、コムギ本来の美味しさを実現した姿とも言えると思うのですが。
樺島 それは言えますね。とにかく香川の人は、地の利が悪かろうが、店がきれいでなかろうが、麺さえ美味しければそこに行く。
奥山 ということは、そういうあり方というのは、世界食化が難しいということになりますかね。
樺島 究極の麺の美味しさだけを前面に出しても、それを理解してくれる人はほとんどいないということだと思います。現地の人の食の事情を深く研究し、こうでないといけないという固定概念に縛られず、工夫すれば、うどんも世界食になれると思います。
(後略)