弘法大師空海とうどんのルーツを訪ねて(下)(村井 真明)より抜粋
(前略)
9月8日(金)
新疆時間午前8時(北京時間午前10時)30分。エイティガール寺院を見学する。この寺院は中国最大のモスクで、敷地は16000平方メートルあるそうだ。カシュガルは中国におけるイスラム発祥の地だという。
アクバァさんの話によると、中央政府から、18歳未満の者はモスクに入ることを禁止されているそうだ。もともと中国共産党は無神論を主張する政党で、特に文化大革命のときには宗教に対して非常に厳しい政策をとっている。改革開放により宗教政策は緩和されたとはいえ、まだ共産主義国家らしいところが残っている。
その寺院の広場から向かって左に入った通り沿いに職人の街がある。商店街みたいだ。仕立て屋、帽子屋、靴屋、肉屋、木工屋、金物屋などの職人の店が並び、農産物、小刀、工芸品、陶器、骨董品、アクセサリーなどありとあらゆるものが商店や露天で売られている。おもしろいことに、骨董屋では文化大革命華やかなりし頃の『毛沢東語録』も無造作に並べられている。携帯電話も路上に並べられて売られている。
食べ物もたくさん売られている。特に目立つのは羊肉の切り売りとナンだ。羊肉は丸ごとぶら下げ、お客の求めに応じて少しずつその場で切り売りする。頭蓋骨部分だけを売っている店もある。
直径30センチメートル以上のナンを10枚くらい重ねた山をまた十いくつと山盛りにされている。店に入りナンを作るところ見せてもらう。少年と思われる子が小麦粉をこねて鏡餅の形をしたような団子を作っている。店内には数十個の団子が並べられて寝かされている。熟成のためだという。諏訪さんの話では、ここまではうどんを作る工程とほぼ同じで、触った感触も同じだそうだ。団子を手で平たくして文様を押し焼き釜の中に入れて焼けばできあがる。その文様を押す工具を隣の工具店で売っている。複雑な文様は50元と、現地の価格としては結構高い。
ホテルに戻り、ホテルの敷地内にあるレストランで昼食をとる。この建物は、かつてイギリス領事館だったところだそうで、今もその雰囲気がいたるところに残っている。
新疆時間午前11時(北京時間午後1時)45分、ホテル発。バザールを見学する。このバザールにも多くの商品が店頭に並べられている。直ぐ近くに休憩所がある。ここにも日本人がたくさん来ているのだろう。休憩所になんと「きゅうけいしつ」と日本語で書かれた看板が掲げられている。
ここでトイレを借りると、売り子さんが直ぐ近づいて来て日本語で話しかけてくる。「これ5枚で1万円です、安いですよ」と。いりませんと言ってもなかなか去ってくれない。それならもう1枚おまけします、と粘り腰でくる。ここでは商品に値段など付いていないようなものだ。売手と買手の交渉で決った金額が値段だ。売手は最初から自分が提示した価格で売れるとは思っていない。日本人から言えばそれはいわゆる“ふっかけ ”ということになる。
カシュガルはシルクロードの十字路で、古い時代から様々な人間が集まって交易をしていた街だ。さすがに商売にかけては農耕民族の日本人がかなうわけがないと妙に感心する。それにしても、日本人とみたら売り子が直ぐ寄ってくるところを見ると、ここでは日本人はおそらくいいカモになっているのだろう。
バザールの外側の道路に沿って食べ物屋が並んでいる。その中に麺専門店もある。露天の店で、10人程度の現地人が美味しそうに麺を食べている。店主と思われる男性がマジックショーのような手さばきで手延べ麺を作っている。1本が2本、2本が4本、4本が8本と瞬く間に4〜5人分の麺ができ、釜に入れる。 その間に店主の奥さんらしい人が、具材を炒める。具材は羊肉にタマネギ、ピーマンなどでつくるのは娘達の仕事のようだ。ゆで時間3分。注文から出来上がりまで約10分。水で冷やした麺に具材をかけて出来上がり。その手さばきの鮮やかさについ見とれてしまう。ラグマンと同じように具材をぶっかけて食べている。
新疆時間午後3時(北京時間午後5時)50分、カシュガル空港離陸。カシュガル上空は黄色ぽいガスのようなもので覆われ、霞んでいる。細かい土の粒子が舞い上がっているようだ。
カシュガルは中国の中のイスラムという街だ。一見すると、シルクロード観光で内外の観光客を集める平和な街のようにみえる。しかし、第二次世界大戦前から東トルキスタン共和国をはじめ幾度かウイグル人が主体となった独立政権の樹立が試みられ、今でもその運動は続いているという。その一部にはイスラムテロ組織との関連もあるといわれている。実際に、ニューヨークの国際貿易センタービル攻撃など九・一一事件を契機とするアフガン戦争のとき、米軍の捕虜となったアルカイダ兵の中に中国ウイグル族がいたという。
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