麺に関わる情報・リポート・論文の専門誌
「富士宮やきそば」から「愛Bリーグ」に至る「感性価値創造」に関する一考察
B級ご当地グルメでまちおこし団体連絡協議会=愛Bリーグ
富士宮やきそば学会 会長 渡邉 英彦
(前略)
  平成19年5月、経済産業省は、人口減少、少子高齢化の状況下にあっても経済・社会の活力ある発展を目指すために、感性という新たな着眼点からの価値軸(第四の価値軸)の提案を行う「感性価値創造イニシアティブ」を策定した。
  同省によれば、「感性価値」とは、「生活者の感性に働きかけ、感動や共感を得ることによって顕在化する価値」と定義付けされている。これまでの日本は、ひたすら「機能、信頼性、コスト」といった要素を追求した「ものづくり」に励んできた結果、「ものづくり大国」と呼ばれる社会を築き上げたが、1990年代から中国など近隣諸国の追撃により構造変化に直面したのである。我が国における産業競争力を維持・向上させていくためには、「+αの価値」を生活者に提供しなければならず、この「+αの価値」とは、作り手のこだわり、趣味、遊び、美意識、コンセプトなどが、ストーリーやメッセージをもって「可視化」し「物語り」化することにより、生活者に「感動」「共感」を持って受け止められる価値のことであり、この「+αの価値」を「感性価値」と呼ぶのである。
  簡単に言うと、これからは「いいものだから売れる」時代ではなく、優れた技術力を持ちながらも、作り手の手間やこだわり、時間などに消費者が共感し、それに価値を見出さなければ売れないということなのである。
  これは、商品やサービスの「機能、信頼性、コスト」至上主義から、そこに関わる「人」に目が向き始めており、「ものづくり」のレベルにおいて近隣諸国を凌駕することにより外貨獲得型の大きな産業化を目指すだけでなく、地域の小さな資源を見つめなおし、地域の人々が生きがいを感じる地域ビジネス的なものへ視点が動いていると言うことができる。
  もちろん、すべての消費者がそのような「こだわり」等の「付加価値」を購買の動機とするとは思えないが、少なくとも自分自身に置き換えてみれば、「見た目」や「性能」が同じでも、そこに曰く因縁、ストーリー性があるものの方を選ぶ傾向があるように思える。それはやはり、日本という成熟社会の特徴と呼ぶべきものであろう。そして「食」の世界においても、社会的には大きな問題ではあるが、「飽食の時代」と言われ、今ではあまねく全国で食べることのできる高級食材よりも、地域独特の食材や料理に新たな価値を見出し始めている消費者は少なくないと言える。それが如実に実感出来たのが「第2回B|1グランプリ」(2007年6月2?3日富士宮市にて開催)であった。2日間で富士宮市の人口の約2倍=25万人の集客があり、10万人程度の集客しか見込んでいなかった開催地実行委員会はその収拾に翻弄された。言い換えれば、この「B|1グランプリ」という企画が多くの消費者の感性に訴え、共感を生んだ結果だとも言える。後日談だが、この成果が評価され、社団法人日本イベント産業振興協会が主催する「2007年度日本イベント大賞」の「制作賞」(八戸せんべい汁研究所との共同)を受賞することになる。(富士宮やきそば学会は更に同年、地方自治法施行60周年記念大会で、地方自治への功労を評価され、総務大臣表彰も受けている)
  さて、これまで我々は2000年に富士宮やきそば学会を組織し、2007年までに200億円以上の経済波及効果を出し(富士宮商工会議所調査)、年間60万人もの新たな観光客層を生み出した。遡って考えてみると、それはひたすら「富士宮」の「やきそば」というものから、「の」という格助詞を取りさり、感性価値を付加することによって「富士宮やきそば」という地域ブランドを創り上げたと言えるのではないだろうか?  何故なら、「モノ」としての「富士宮」の「やきそば」は戦後からずっと「素材」、「レシピ」共にほとんど変わることなく存在しており、「富士宮やきそば学会」の活動は、素材の改良やレシピの工夫などではなく、その存在を様々な取り組みにより、消費者に対しメディアを通して「価値」あるものとして発信することであったからである。
  いずれの用件とも首尾よく目的を達することができたのは、空海のもたらした事蹟がすでに知られていたことによるであろう。

(中略)
  そして、何故その情報発信が効率よく運んだのかといえば、富士宮の「やきそば」そのものに、地域の歴史や作り手のこだわりに支えられた「希少性」という要素があったことは勿論だが、「話題性」や「物語性」を様々なエピソードを通して付加したからに他ならない。
  「話題性」や「物語性」の付加とは、「感性価値創造」そのものである。そこに存在しているのは単なる「やきそば」ではない。終戦直後という特殊な食糧事情を背景に、廃物利用とも言えるレシピ(肉カスやだし粉の使用)を頑なに守り続けることにより、他地域にはない独自な「やきそば」が生まれた。その「やきそば」は「駄菓子屋」というこれまた特殊な環境を中心に普及したことにより、富士宮市民はもの心付く頃から親しむことになり、「少年・少女時代の思い出」という要素が加味され、「富士宮やきそば」の「物語性」が高まるという効果を生み出している。
  この「物語」を確立したのも「富士宮やきそば学会」なのであるが、学会の主たる活動は、この「富士宮やきそば物語」を「話題性」を伴って発信すること、言い換えれば「パブリック・リレーション」=「広報・宣伝活動」である。ネーミングやコピーにこだわり、「富士宮やきそば学会」、「やきそばG麺」、「ミッション麺ポッシブル」、「三者麺談&三国同麺協定」、「麺財符」、「麺許皆伝」、「激香夏麺」など、様々な言葉の加工により、マスコミや消費者の感性に訴える活動を続けてきたのである。  誰しも考えてみれば解ることだが、「物語性」も「話題性」も「言葉の力」によって生み出され伝わるものであり、「モノ」として存在していることとは全く違う次元であり、そこで「感性価値」を伴った「地域ブランド」の確立ということが初めて可能になるのである。 (後略)